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「中国四川省-四姑娘山便り」大川健三 -冬虫夏草-

写真で見る冬虫夏草はイモムシの姿で長い尻尾を持っていますが、中身は菌類の粉です。
この菌類は冬虫夏草菌 (Cordyceps sinensis Berk Sacc)と呼ばれるバッカクキン科に属するキノコの一種だそうで、菌から伸びた長い尻尾は子座(子実体)と呼ばれます。
夏、標高4000m前後の高原に咲き乱れる花に産み付けられたコウモリガ科の蝙蝠蛾(Hepialus armoricanus Oberthur)の卵は幼虫に孵化して土に潜り、植物の根の栄養分を吸収しながら成長します。
この時に冬虫夏草菌が幼虫の体内に侵入して幼虫の栄養分を吸収しながら育ち、やがて幼虫の形を残したまま、中身は全部菌にとって代わります。そして初夏になる頃、菌が発芽して長い尻尾を伸ばし小さな頭(菌の子実体)を地面に出します。
これを目印にして採集された物が我々が目にする冬虫夏草です。しかし冬虫夏草は中々見つけられません。
四姑娘山周辺で冬虫夏草採りを誘われた時に聞いた話では、セリ科ハナウド属(Heracleum sp.)の一種の傍に冬虫夏草が多いそうで、採集する人達はこのハナウド属の一種が生える場所を手掛かりにするそうです。
冬虫夏草は中国を代表する漢方薬で古くから愛用されています。
私の友人の四川大学医学部の内科教授は日本や米国に留学して西洋医学を学んでいますが、冬虫夏草を何にでも効く薬として重用しています。
冬虫夏草の産地での取引価格は毎年の出来不出来や需給関係で変わり、上海等の大消費地では数倍になるそうです。
2000年代に入って以降、他の漢方薬を差し置いて冬虫夏草の価格だけが毎年のように値上がりを続けた結果、昔からの薬草採りは他の薬草に見向きしなくなり冬虫夏草だけを採るようになっています。
また一般の農家や町の他の職業の人達の一部も初夏から夏に掛けて本来の仕事を休んで山に入り高騰した冬虫夏草を採るようになりました。
そのため当地では、冬虫夏草採りは、夏のお寺の伝統的な行事の開催日を変える程の、毎年の一大イベントになっています。冬虫夏草の売り買いが始まるのは5月に入ってからです。この時期になりますと、掘って日が浅い泥を付けたままの冬虫夏草を囲んで値決めする姿が銀行門前や周辺の彼方此方で見られます(業者の取引は一回数万元とか10万元になりますので)。

なお産地で泥を付けたまま取引するのは、今年の産である事を確認したり、妙な細工(折れた物を繋いだり中に砂を詰める等)をチェックするためで、取引成立後にワイヤブラシで泥を落とし乾燥させます。
しかし今年の丹巴を含む四川省北西部で産する冬虫夏草は質が悪くて(中空の物が多い)相場が半値に下がっています。
このため採取量が少なく、取引状況は賑わっていません。少し寂しい雰囲気ですが、丹巴での取引状況を写真でご紹介します。

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産地価格90元前後の冬虫夏草
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セリ科ハナウド属(Heracleum sp.)の一種
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冬虫夏草を囲んで値決めする様子
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泥を付けたままの冬虫夏草
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泥を落として冬虫夏草のサンプルを検査する
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銀行門前で取引された冬虫夏草を見物したり情報収集する
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取引された冬虫夏草の泥を落とす-1
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取引された冬虫夏草の泥を落とす-2、赤い八角容器の中は昨年産の冬虫夏草